これは、私が「祈りを描く」という道を選ぶまでの、ひとつの記憶です。
それでも、私は描いた— 作品を酷評された日 —Still, I Painted
— The Day My Work Was Harshly Criticized

初個展を決めたとき、
私はまだ、何者でもない画家でした。
コンクールの受賞歴もなく、
どこにも所属していない、
ただ絵を描き続けているだけの存在。
それでも、幼い頃からの夢、
「歴史に残る画家になる」という
大きな願いを胸に、
東京、静岡、富士での
初個展が、ご縁によって決まりました。
そのとき、
ある言葉が、私の世界を止めました。
「こんな作品で個展なんて、恥ずかしい。やめさせなさい」
姉を通して伝えられたその言葉は、
あまりにも強く、あまりにも冷たく、
私の中の何かを、
一瞬で壊してしまいました。
「日曜画家の、へたくその絵だ」
「ナイーブアートにすぎない」
その方の言葉を、姉を通して聞いたとき、
私は深く傷つき、
しばらく筆を持つことができなくなりました。
姉のためにも、やめるべきなのだろうか。
個展をやる意味が、
わからなくなってしまったのです。
私の絵は、
印象派でもなく、
具象でもなく、
抽象でもない。
どこにも属さない、
当時の主流から外れた絵でした。
だからこそ、
「本流ではない」と言われたのかもしれません。
描けない日々の中で、
私は何度も自分に問いかけました。
やめたほうがいいのだろうか。
個展を開くには、まだ早すぎるのだろうか。
そしてある日、
ふと、心の奥から声が聞こえました。
「来たい人だけ来ればいい」
誰かに強制するわけではない。
首に縄をつけて連れてくるわけでもない。
ただ、
私の絵を必要としてくれる人が、
もし一人でもいるのなら。
それで、いいのではないか。
そのとき、
私は“開き直った”のかもしれません。
あるいは、
少しだけ自由になれたのかもしれません。
そして私は、
個展を開催することを決めました。
後になって知ったことですが、
その言葉を発した方は、
かつて夢を持ちながらも、
それを諦めた人だったそうです。
だからこそ、
夢を追う人を見たくなかったのかもしれません。
でも私は思います。
夢を持つことに、
遅すぎることなどない。
仕事をしながらでも、
どんな状況でも、
夢は持ち続けていい。
そして開催した初個展で、
私は忘れられない言葉をいただきました。
「ラファエロ前派が好きなんです。
あなたの絵には、物語と詩がありますね」
その言葉は、
私の心を静かに救ってくれました。
また、ある方にこう言われたこともあります。
「この絵は、すべて名画の模写ですか?」
驚きました。
でもそれは、私にとって最高の賛辞でした。
三会場での個展は大成功に終わり、
多くの来場者が訪れ、
作品も販売することができました。
当時描いていた油彩テンペラ混合技法は、
一枚に一年かかることもあり、
決して安い価格ではありませんでした。
それでも、
即決で購入してくださる方もいて、
本当に驚いたことを覚えています。
それ以上に、私にとって何より嬉しかったのは、
作品を見てくださった方が、
静かに足を止めてくださったり、
「心が落ち着きます」
「やさしい気持ちになりました」
と声をかけてくださったことでした。
絵の前に立ち、
しばらく動かずに見つめているその姿を見て、
私ははじめて、
「絵は人の心に触れるものなのだ」と
実感したのです。
私にとって個展の成功とは、
作品が売れること以上に、
誰かの心に、
ほんの少しでも光が灯ることでした。
当時、
芸術とは難解で、暗く、
わかりにくいものほど価値があると
思われていたように感じます。
私の絵は、
色彩が明るく、
女性像もやわらかく、
当時はそのやさしさゆえに、
芸術として正当に評価されにくいこともありました。
「このままでは賞は取れない。
もっと“汚さないといけない”」
そう言われたこともあります。
けれど、
私にとって大切なのは、
賞を取ることではありませんでした。
自分の信じるものを描き続けること。
誰かの心に、光を届けること。
それだけでした。
短大の先生に勧められ、
初めてヨーロッパを訪れたとき、
バチカン美術館で見た
本物のテンペラ画の光は、
今でも忘れることができません。
ルネサンスの巨匠たちの作品。
それが、
私の永遠の師となりました。
誰に何を言われても、
私はこの光を描きたい。
その想いだけが、
私を支えていました。
あの頃は、
なぜあれほど否定されたのか、
わかりませんでした。
けれど今は、
はっきりとわかります。
どんな言葉にも揺れず、
自分の信じる道を歩くこと。
それが、
無条件の愛を描く、
“祈り”ということなのだと。
Yuko Sagisaka
Contemporary Symbolic Tempera Painter