Tempera: A Practice of Prayer
テンペラとは、卵で顔料を練り、描く古典技法として知られています。
その語源はラテン語の「temperare」──「混ぜ合わせる」という意味を持つ言葉に由来します。
しかし私にとってテンペラとは、単なる技法ではありません。
それは、光と時間、そして祈りを重ねていく行為そのものです。
中世からルネサンスにかけて、この技法は祭壇画として神と人とを結ぶために用いられてきました。
卵という自然の生命を媒介にし、顔料と水とが静かに結びつくことで、画面には独特の透明な光が生まれます。
油絵具のように混ざり合うのではなく、テンペラは層を重ねていく絵画です。
一筆ごとに乾きを待ち、再び色を置き、また時間を重ねる。
その繰り返しの中で、絵はゆっくりと呼吸を始めます。
このプロセスは、効率とは対極にあります。
しかしだからこそ、そこには「急がない時間」と「意識の静けさ」が宿ります。
テンペラにはいくつかの系譜があります。
卵黄のみを用いるエッグテンペラ、油分を加えたテンペラグラッサ、そして油彩と併用するテンペラミスタ。
それぞれに異なる表情がありますが、共通しているのは「光を内側から生み出す」という性質です。
それは、表面に塗られた光ではなく、層の奥から滲み出るような光です。
私は主に、黄金背景テンペラ古典技法と、油彩・テンペラ混合技法による板絵を制作しています。
さらに近年では、日本の拭き漆や蒔絵の要素も取り入れ、東洋と西洋の美が交わる表現を探求しています。
金箔やプラチナ箔は、単なる装飾ではなく、光そのものの象徴として存在します。
その上に重ねられるテンペラの層は、時間とともに深まり、静かに輝きを宿していきます。
ラファエロの調和、ファン・アイクの光、クラナッハの艶、そしてフラ・アンジェリコの静けさ。
そうした美の系譜に触れながら、私は現代において、この技法を生きたものとして受け継ぎたいと願っています。
テンペラとは、過去の技法ではなく、今ここに在る祈りのかたちです。
一層一層の積み重ねの中で、見えないものが少しずつ現れてくる。
それは、光を描くというよりも、
光が現れるのを待つ行為なのかもしれません。
技法としてのテンペラについては、こちらに記録しています。
Tempera (Archive)
The technical aspects of tempera are documented here.
Tempera (Archive)